2017年6月24日土曜日

夏の日。

――その夏の日は、いつもよりも蝉が五月蝿く鳴いていた。そんな中、透きるような肌をした君は僕の方を見て、笑って、そして――
§ㅤ§ㅤ§
確か、それはうだるように暑い夏だったと思う。小学六年生の僕は仕事で忙しい父と母が僕の面倒を見きれないという理由から、田舎にある祖父母の家でご厄介になっていた。
小さいころから何度かこういうことはあり、祖父母の家の勝手も僕は知っていたので、大して困ることもなく僕は例年通りの夏休みを過ごしていた。
とはいえ田舎のこの辺りの小学校に通っているわけでもない僕は他の子と遊ぶ気にもなれず、午前中は宿題をして、それが終わったら一人で本を読む、テレビを見る。それだけの生活を送っていたわけだが。
そんな大した変化もない日々に飽きてきた八月二日の日、祖父母と近所の神社の神主が世間話をしているのが聞こえてきた。
「わしんとこの連中にも若いもんがおらんくなってしまって、そのくせそろそろ盆前じゃけんいろいろと大変でな。最近ではもう境内の手入れさえままならんぐらいじゃ。」
「そんならうちんとこの孫を使いよ。一日中暇にしとるけえ、いろいろ小間使いとかの役には立つとは思うで。」
まあ一日中、というわけではないが暇にしていることは確かだ。
「ボウズ、手伝ってくれるか?」
まあ、ノーという理由もないので、わかりました、とだけ言った。
§ㅤ§ㅤ§
翌朝の八月三日、言われた通り八時半ごろに境内に行ってみると、昨日の神主さんに出会い、いろいろと手順などを教えてもらった。
手伝いといっても午前中だけで済むもので、境内の掃き掃除とか手水の手入れ、本殿の雑巾がけだけだったので、なんだ、それだけか、などと思ってしまった。
八時半からとはいえどんどん気温は上がっていくうえに、蝉は一日中せわしなく鳴いており、一日目、二日目は意外とやってみると疲れるもので、昼からは夕方までずっと昼寝に使ってしまった。神主さんにはよく頑張るな、などと褒められるので、なんとか続けられていた。
そして三日目、手伝いにも慣れてきて、午後に実行するあてもない予定を立てられるくらいにはなった。
そんな矢先、出来事が起きた。
『毎日ご苦労様だね』
ご神木の欅の周りの掃き掃除をしていると、どこからか蝉の声に交じってぼんやりとそんな声が聞こえてきた。
まさか、神様の声⁉なんて考えていると、今度は声ははっきりと後ろから聞こえてきた。
「私と同じくらいの歳なのに、よくそんなに頑張れるね?」
振り向くと、声の主は、彼女は、狛犬の台座の上に座って、こっちを見て微笑んでいた。そして僕が通っている学校ではあまり見ないような服を着ていた。
びっくりするのよりも先に言葉が出た。
「そこ、座ってたら神主さんに怒られちゃうよ。」「あ、そっか。」
じゃなくて。
「君は誰なの?」
この土地の人なのか?
「私はこの神社の近くに住んでるの。いっつも朝頑張ってる君を見てて、偉いなあって思ってたの。」
近くの家に住んでる人がいたのか。
「私は古葉みなみ。君は?」
「都城徹也。今十二歳。」
名前のついでに年齢も告げると、彼女は少しうれしそうに、
「あ、同い年なんだ!」
といって、謎の握手を求めてきた。
よくわからないまま握手を返す。外に出てきたばかりなのか彼女の手はひんやりしていた。
後ろから神主さんが社務所から声を掛ける。
「ボウズ、今日もしっかりやってるな…って、お?お嬢ちゃんも手伝いに来てくれたのかい?」
いや、この人は、と言いかけるとみなみはそれを遮って、
「そうでーす!徹也一人だと大変そうだから手伝いに来ました!!」
と、元気よく言っていた。どうやらやる気のようだ。
「よし、それじゃあお嬢ちゃんにもお願いしようか!二人でさぼったりしないようにな!」
そういって、忙しそうにまた社務所の中に引っ込んでしまった。
「さて、徹也?私は何をすればいいの?」
みなみは僕にむかい、そういった。
「じゃあ、ここの掃き掃除を。」
仕事をさせてみると、みなみは僕よりも全然仕事ができた。てきぱきと仕事をこなしていく彼女を僕は単純にすごいな、と思った。心強いパートナーだ。
そのおかげでこの日はいつもの三分の一程度の労力で終えることができた。
掃除が終わると彼女はすぐに、「あ、私用事あるんだった!!また明日ね!」そういって飛ぶように帰っていった。
毎回掃除の終わりの報告をするのだが、その時に神主さんに「お前いつの間にあんないい子を見つけたんだ?」などといじられ、僕は少し赤面する羽目になってしまった。
四日目からもこの日のような調子で彼女は掃除が終わると「今日は家の手伝いが!!」「あさごはん!!」「部屋をきれいにせんと!!」「蝉の脱皮が始まっちゃう!!」「バラの木を伐採しに行ってまいりますわ!!」「UFOが!!」などと、色々な理由をつけてさっさと帰ってしまう。まあ、手伝ってくれるだけですごく楽しいしありがたいので、文句などは言える立場ではないのだが、ちょっとくらい遊んでくれてもいいのにな、とは思うのであった。
そして手伝い始めて十二日目、みなみと出会って十日目、ちょうどお盆の真ん中のその日、神主さんが掃除中の僕らに向かっていった。
「今日は夏祭りだから、夕方からでも遊びに来いよー」
僕はここぞとばかりに、みなみに言った。
「夏祭り、もしよかったら一緒に行かない?この辺友達いなくてさ、一緒に行ける人がいないんだよね。」
彼女は一瞬逡巡し、「いいよ!」と笑顔で言ってくれた。
そしてその日も、彼女は掃除が終わると逃げるように去っていった。
しかし、今日はこの後に一緒に遊びに行くのだ。この機会をきっかけに近づけるのかも、と、そう思っていた。
しかし、その日、その時間になっても、彼女は、みなみは、現れなかった。
日が落ちて夜になっても、祭りの最後の花火が上がっても、人がまばらになってしまっても、いくら待てどもみなみは現れなかった。
その日の夜、僕は布団の中で今までのみなみの言動、様子などを思い出し、整理してみた。
§ㅤ§ㅤ§
翌日、彼女は神社に現れた。
「おはよう!昨日はいけなくなっちゃってごめんね!なんか予定はいっちゃって…」
「なんかさ、病気にでもかかってるの?」
「…え?」
僕は彼女の言葉にかぶせるように言った。彼女の本当のことを知りたい。そう思ったからだ。
「び、病気なんかじゃないよ~!昨日はほんとに用事が入っちゃって…」
「朝も掃除が終わった後すぐ帰っちゃうのもさ、ほんとは点滴が切れそうだったからだとか、そういうことじゃないの?」
「そんなんじゃ…」
「ほんとのことを教えてよ!!…心配してるんだよ…?」
「…」
彼女は黙ってしまった。いつものような笑顔も顔から消え、少し焦っているようにも取れた。
蝉の声は、こんな時でもうるさく聞こえた。
「もうさ、無理してるんだったら明日からは来なくていいよ?僕一人でも十分やれるから。」
彼女を気遣っているというのもあったが、それは真実だった。もう、一人でも十分できるくらいに僕はこの仕事に慣れてきていた。
みなみはやおら立ち上がり、僕に向かい手を差し出して言った。
「私の体、触ってみて?」
僕は言われた通り彼女に触れようとした。
しかし、僕の手に彼女の触り心地はなかった。そして近づいてみて、彼女の体は少し透けていることに気付いた。
僕は混乱した。
「なんで…」
「私ね、幽霊なの。死んだのは今から五百年前くらいだったかな。私はこの神社が建てられるとき、人柱として埋められたの。この神社は水害とか度重なる飢饉とかで、神の怒りを鎮めるために作られることになったんだけれど、ちょうど嵐の時期と重なってしまって、とりあえずの神への供物として私が捧げられることになったの。」
彼女はそういって、本当に触れないことを確認するかのように僕に手を伸ばし、そして、つづけた。
「私は黄泉がえりするたびにこの集落が、この神社がちゃんと栄えてるかを確認しに来るの。でも神社の境内からは出られないから、君と一緒に帰ろうとして、でも帰れないっていうのが悲しかったから…私は先に帰ったふりをして、物陰に隠れて君のことを見てた。夜に君と夏祭りに行けなかったのは、もう自分がいつ消えるのかわからなかったから。遊んでる途中に消えでもしたら、みんなびっくりしちゃうしね。だから、この時も陰に隠れて君のことを見てた。いつまでも待ってくれたよね?申し訳ないことしてごめんね?」
僕は何も言えず、ただ彼女の言葉を聞いていた。
「君に会えて、君と掃除した日々は本当に楽しかった…我儘を言うともっと遊びたかったけど、そんなことは贅沢すぎるよね…」
しかし僕には、なんで彼女がこんなにも焦っているのかわからなかった。
「来年も会えるんじゃないの?」
「私程度の力だと、五十年に一回が限界みたいなの。だから、次に会えるのは五十年後…もう君が忘れてるかもしれないから、こうして言いたいことを全部伝えたいの。」
五十年…まだその四分の一程度しか生きてない僕にとって、その年月は途方もないものに感じた。
「約束はできないけど、五十年後の僕は、きっとここに戻ってくる。だから、さ。安心しして。」
確信は持てなかったが、こんな不思議な体験は生涯忘れることはないだろうと思った。
そういうと、みなみは泣き出した。
「ありがとう…忘れないでね?私のこと、この神社がこうであったこととか、欅のこの姿とかを。きっと五十年後は、みんな変わってる。それでも君が来てくれるっていうのなら、忘れないでね?」
「うん。約束するよ。絶対に、忘れない。」
その言葉を聞くと、彼女は満足したように、少しずつ消えていき、やがて、景色へと同化して見えなくなってしまった。
§ㅤ§ㅤ§
そして僕の夏休みは終わりを告げた。父も母も仕事がひと段落つき、僕は夏休みに祖父母の家に泊りがけで行くこともなくなってしまった。そしてその集落のことを片隅に考えながら学生生活を送り、就職し、結婚し、仕事でも順風満帆に出世していった。
祖父母は僕が学生の間に亡くなってしまい、神主さんもその後少したって亡くなったらしい。しかし神主さんの跡継ぎはおり(その跡継ぎは私と同い年であった)、神社と集落は長い間栄えつづけた。しかし少子高齢化のあおりも受けじわじわと人口は減っていき、私が五十歳の時にすべての人間がその集落を去り、廃村となってしまった。
その後も神主の跡継ぎは神社に通い続けその神社が廃れないように手入れをし続けたという。
そして、話は私が六十二歳の時へと。
ある日、その跡継ぎから連絡が入った。
「君に会いたがっている人がいる。一度こっちに来てみてください。」
集落のあった場所に行ってみると、集落の入り口に跡取りが立っていた。
「ご無沙汰してます。」
「ああ、どうも。同い年なんですからそんなにお硬くならなくて大丈夫ですよ?」
という会話を交わしながら、私たちは村の奥へと進んでいく。
今年もあの年のように蝉がせわしなく鳴いていた。
「実は私、あなたとは十二歳の時にも会っているんですよ。夏祭りの時だったかな。あなたは覚えてないと思いますが、あなたがずっと立っていたの隣の場所に屋台を出していたんですよ。」
「ああ、そうなんですか!?よく覚えていらっしゃいますねぇ」
私はそんなこと全く覚えていない。あの時はあの人のことしか考えていなかった。
「着きました。これが現在の神社です。」
そこは五十年前とはずいぶん景色が違っていた。あの大きな欅は切り株だけになっており、本殿は建て替えられていた。
「で…あれ、肝心のあの子がまだいない。」
「ああ、あいつと会うのなら多分朝になるでしょう。いつもそうでしたから。今夜一晩泊まりたいのですが。」
「ええ、大丈夫ですよ。」
そして次の日。あの時と同じように、八時半から私は箒をもってその場所の掃き掃除を始めた。意外とやってみると体は覚えているもので、普通に掃除ができた。
その時、神社に一陣の風が吹いた。
『覚えていてくれたんだね。』
蝉の声に混じってどこからともなく、声が、聞こえた。
ああ、あいつの声だ。
そして、今度はその声が後ろから聞こえた。
「おかえり。」
彼女はあの時のように、狛犬の台座に腰かけていた。あの時と同じ顔、同じ格好で。
私は涙をこらえながら、こう言うことにした。
「そこに座ってると、神主の跡取りにおこられるぞ。」
彼女は、懐かしそうに微笑んだ。
「そうだね。」
EㅤNㅤDㅤ…

2017年2月5日日曜日

あの日の夢は今に繋がってる

僕は中学生の頃、時たまに一度も言ったことのない場所に、一度も会ったことのない人と遊びに行く夢を見た。
その人は、女性。顔も声も年齢も朝になれば忘れてしまう。でも、ただ一つ、僕はその人に恋をしてるんだってことだけははっきりと覚えていた。
いつか会えるのかなと思っていたけど、特徴など覚えていない人だから探し様が無いし、もし探せたとしても引っ込み思案な僕が声をかけられるわけもない。
だけど、或る時どうしても人に話したくなって友達に話をした。
もちろん信じてくれるわけもなく、ただの夢にどこまで幻想を抱いてるんだよとまで言われた。
全くその通りだと思ったし、なんだか自分がバカバカしくなって、恥ずかしさも感じた。
それ以降、ありえない夢だって忘れようとした。何度夢に出てこようと、所詮自分の描いた理想だ、妄想だ、と思うようにした。
高校生にあがる頃にはそんな夢はもう見なくなっていた。僕は心の中で、「これが大人になるってことなんだ。幻想なんて抱かない、現実で生きていく大人近づけてるんだ。」と、自分の成長を感じた。
何もなかったつまらない高校生活も終わる頃にはそんな夢の話も忘れて、前期も後期も第一志望に落ちたせいで長く感じた受験戦争も、自分が親や先生に告げられた「妥協」というポツダム宣言を受け入れることで終わりを迎えた。
そして、僕は不本意ながらに第二志望の大学へ進学した。
そしてそれは強く雨の降っていた日、面白くもない大学の講義を受けて家に帰ろうとした時のことだった。
§§§
出入口には傘を忘れたのか、じっと雨を見ている1人の女性がいた。でも僕は「どうせ誰かがどうにかするだろう」という思いと、自分の引っ込み思案な性根のせいでその人を無視して帰ろうとし、傘を取ろうと傘立てにむかった。
…しかし、いくら探せど自分の傘がない。ほかの傘立てに入れた覚えも無いし、この雨は朝から降っていたのでここまで差してきたことだけは覚えている。つまり結果から言うと。
しまった。盗まれた。
特に愛着がある傘というわけでもないが、盗人のせいで自分が雨に濡れながら帰らないといけないと思うと癪に障る。
どうにか濡れない方法はないかと思案していると、先程から近くにいた傘を忘れたであろう女性が声をかけてきた。
「あなたも傘を忘れたのですか?」
いや、一緒にしないでほしい。
「いえ、持ってきたのですが...どうやら、盗られてしまったようです。」
あくまで盗まれたということを強調させた言い方をした。少し感情が出てしまったか。
「あらら...それは災難ですねぇ」
彼女は気の毒そうに言い、自分の鞄から折りたたみ傘を取り出し、僕の手の上に乗せた。
「急用でしたら、どうぞ?」
え、持ってるのかよ。
「ああ、有難うございます。というか、あなたはなぜ使わないのですか?」
彼女は肩を竦めながら、
「今日は、あまり傘を使いたい気分じゃなかったんです。」
と、微笑んだ。
それが僕への親切だとわかると、僕は
「貴方が濡れて帰っては意味が無いですよ。貴方が使うべきです。」
と、それを返そうとした。
すると彼女は両手を振りながら
「いえいえいえ!本当に今日は濡れたい気分なんです!!」
と言った。
しかし僕は、どう考えても僕が帰ったあとあの人が困るのではと思い、彼女に言った。
「ではこうしましょう。この傘であなたの家まで僕が行きます。そこから僕はコンビニかどこかで傘を買って自分の家まで帰ります。」
そういうと彼女は小さく笑い、
「あなたは優しいんですね。でも、私の家はここから結構ありますよ?多分あなたの方が近いのでは?」
彼女が言った住所で調べてみると、確かに僕の家の方が近かった。
「…じゃあ、僕の家まで送ってくだされば、それで結構です。」
と言うと、彼女はにこやかに
「わかりました。では行きましょう」
と言った。
そして何事もなく、僕のアパートに到着した。
「それではまたいつか。本当にありがとうございました。」
そう言うと、僕は深々と頭を下げた。
彼女は恐縮したように、
「いえいえそんな、当然のことをしたまでですよ。」
と言う。
その時だった。
ザッバァーン!
車道を通った車が水溜りの泥水を相当な量はねて、彼女は泥だらけとなった。
「…うちのシャワーでよければ貸しますが…?」
「…ありがとうございます…」
「すいません。服まで借りちゃって。」
申し訳なさそうに彼女が言う。
「いいえ。こちらこそ汚い部屋に上がらせてしまってすいません。」
もともと来客など想定していない部屋であったため、かなり汚い。
「いえいえ、かなり綺麗な部屋じゃないですか。私、言っちゃ悪いかも知れませんけどもっと男性の部屋って汚いものだと思ってましたよ。」
なぜか少し安心した。
「まあ、じきに雨も止むと思いますので、雨が止んだら家まで送りますよ。」
「…ありがとうございます。」
彼女はしおらしそうにそう言った。
そして、2人は並んでいろいろな話をした。学校のこと、講義のこと、昔の自分のこと。
不思議だ。初対面じゃないみたいだ。そして、一緒にいて、とても幸せに感じる。居心地が良い。まるで前にも…
「「…会ったことがあるみたい。」」
「…え?」
自分が考えていたことを相手も?
彼女は、顔を俯かせながら続けた。
「私、子供の頃から夢を見るんです。一度も会ったことのないはずの誰かと、どこかで笑いあっている夢を。でも、いつも夢から覚めると、何も覚えてなくて。でも、今日貴方にあって、いつか会ったことがあるな、とは思うんですけど、絶対に会ったことは無いじゃないですか。だから…気を悪くしないでくださいね…?まさか、そうなんじゃないかなって。」
話を聞きながら、僕の中で、カチリ、と音がした。
全てが、繋がった気がした。
そして無意識に、気づけば、泣いていた。
涙を、止められなかった。
彼女が驚いて、
「!?!?だ、大丈夫ですか?何が気に障ることでも言ってしまいましたか?」
と言う。
僕は首を振りながら、
「はは、生まれてこの方痛覚以外の感情で涙を流したこともないかったのにな…まさかだったよ。妄想じゃなかったんだ。理想じゃなかったんだ。ちゃんと、現実だったじゃないか。」
そう言って、彼女を見た。
「ほんとにいきなりでごめん。でも、言わなきゃいけないんだ。ずっと言いたかったんだ。…あなたのことが、ずっと昔から、好きでした。」
その言葉に彼女も涙を流し、そして、それでも精一杯の笑顔を作って、答えた。
「私も。」
その時から、モノクロになっていた僕の世界が、輝きを取り戻して行った。

2016年12月14日水曜日

~平凡で平和な世界~

~平凡で平和な世界~ⅩⅩⅧ

そうしてその後、彼女たち、御門葵、西原沙矢香、牧直人が帰ってくることはなかった。
HCOMFは中止となり、生徒たちはすぐに家へと送り返された。現場に居合わせた音尾さんと津島君と僕は警察に事情の説明をして、実況見分を受けた。とはいえ、犯人の残した痕跡は弾丸三つ。警察の人によると、犯人の特定は難しいかもしれないということだった。
数日後、三人の葬式が執り行われた。周りの皆は泣いてたみたいだったけど、僕はどうしても実感がわかなかった。
…なんでだと思う?
「泣ける…」
「(幽霊って涙流せんのな)」
「いやー自分の式を見る時が来るとはねー」
「(結婚式じゃなくて葬式だけどな)」
「すごいよ平野くん!!私死んでるよ!あ、そろそろ燃えるよ!ってあっつい!!」
「(だーっ!るっせぇ!!自分の体燃えてんだからもうちょい悲しめよ!)」
三人は幽霊になって、俺にとり憑いていたのだ。
「(お前ら葬儀の時ぐらい静かにしといてくれよ…1人で話してるみたいになって俺だけ変な目で見られんだぞ!)」
しかしまあ、俺だけではなく音尾さんにも見えてるらしく、葬式中も時折「大変そうだね」というような視線を向けてくれる。ま、どうしようもないしね。
いやまあさ、もう二度と会えないってわけじゃないってだけでもうれしいよ?
でも、
「なんで俺じゃないといけなかったんだよ!?」
「うーんなんでだろうね?仇でも討ってほしいんじゃない?」
「じゃあ音尾さんじゃダメなのかよ…」
「未来ちゃんは将来もあるしね!何しろ忙しいだろうし。」
まあ、俺にはなんもないしな。どうせ暇だし。
「でも俺でいいのかよ?多分なんもできないぞ?」
「まあまあそんな事言わないでさ、ずっとこのまま居られるのも嫌でしょ?」
少し嫌じゃないと思う気持ちもあるが脱線するのはめんどくさいので「確かにな」とだけ言っておく。
とはいえ、具体的に何すればいいんだろうか。
「取り敢えず伏見先輩のとこに行ってみとうよ。あの先輩ならきっとなにかヒントくれるよ。」
そして先輩のもとへ。

2016年10月7日金曜日

~平凡で平和な世界~ⅩⅩⅦ

撃たれた瞬間、目をつぶった。しかしいつまで待っても、想像していた痛みは来ない。
というか、どこに当たったのかすらよくわからない。
「…あれ?」おそるおそる目を開けてみる。 目の前には、津島くんがいた。いつの間に。
彼は右手だけ上にあげ、何か口ずさんでいる。歌とかではなくて、文章の朗読みたいな。しかし、よく聞き取れない。ふと周りを見てみると、皆が倒れている。
西原さん、御門さん、音尾さん、牧くん…
なぜ、自分だけ助かった?
なぜ、弾は当たらなかった?
後ろから津島君の声がする。
「他の四人は、実弾で撃たれていた。お前だけは魔法弾だった。魔力を弾丸に変えて放つこの技だが、俺の魔法破壊マジッククリアで破壊することができる。なぜお前だけはその弾にしたのか、真意は分からん。」
「彼らは、たすかるの?」
「やれることはやった。あとは傷次第だ。」
「…そっか。ところで津島くん。なぜ君はここにいるんだい?」
「他のチームが暗号を解き、先生に質問に来た。これはどういう意味なんだとな。その後三十分でお前ら以外のチームはすでに避難が完了していた。お前らは…動きが速くて補足に時間がかかった。本当に申し訳ない。」
「いいよ…起きてしまったことだし。」
「…。」
津島君は、少し申し訳なさそうな顔をした。
「…うん…」
え?
後ろから声が聞こえた。音尾さんだ。「音尾さん!!大丈夫!?」
「んえ、ああ…うん。ちょいと頭がガンガンするけど。」
「…とにかく、いったん聖域サンクチュアリまで戻るぞ。」
そういうと彼は四角形を二つ重ねたような模様の入ったマットを引くと、よくわからない言葉を唱えた。
次の瞬間、空間が歪んで、いつの間にか宿舎にいた。

2016年9月29日木曜日

~平凡で平和な世界~ⅩⅩⅥ

なんだかんだで結構上まで来たわけだが、そこで俺は気づいた。
(あれ、脅迫状の件どうなったんだ!?結局ガセネタだったのかな…)
まあ、しらべようがないので、 そのままほっとくしかないのだが。
御門さんが言う。
「ここが最後のポイントらしいよ。」
「じゃあここから引き返せばいいわけだね。あ、そういえば序盤のほうであった暗号は解けたの?」
西原さんは得意げな顔になって、
「もちろん(ドヤア」
「答えはどうなった?」
ドヤ顔のまま西原さんは解説を始めた。
「まず、問題はこうだったよね?」

もとの数とふるい数から答えを導け
はむよろやてこ
りすとこやとく
にげおたはだら
みたのがしたる

「『もとの数』っていうのは『もと』を『素』と考えると、素数のことだね。」
なるほど。ということは1から28までの素数を考えて、左上から数えて番号に当てはまる文字を追っていけばいいんだな。
「1から28までの素数は、2,3,5,7,11,13,17,19,23。この数に当てはまる文字は
む、よ、や、こ、こ、と、お、は、た。
ふるい数って言いうのは昔の数え方のことだろうから
む(6)、よ(4)、や(8)、ここ(9)、とお(10)、はた(20)
っていう数がでてくるよね。この数に当てはまる文字は、
『テロリストだ』だから、これが答え!!」
…きっとその場で凍り付いたのは俺だけだろう。そして、俺はさらに重要なことに気付いてしまった。
「西原さん、その紙借りていいかな?」
紙を受け取った俺は、他の紙にメモしなおし、今回暗号解読に使った文字と、「テロリストだ」という文字を塗りつぶした。最後の「みたのがしたる」というものがどうしても気になったのだ。見逃したるに、似ていて…

は●●●●●●
●●●●や●く
にげ●た●●ら
み●のがしたる
「早く逃げたら見逃したる」
…ははっ。そんなわけないよ。

「残念だけど、タイムアップ。ゲームオーバーかな?」
どこかからか、そんな声が聞こえた。
そして、順番に五発の銃声が響いた。

2016年8月16日火曜日

~平凡で平和な物語~ⅩⅩⅤ

なんだかんだ言っていたが、結局普通にオリエンテーリングは始まった。
最初、係の人から説明を受けて、専用のコンパスと地図を受け取り、班ごとに解散。
〔ここで宝玉式オリエンテーリングのルールを説明しよう!!
宝玉式は通常のオリエンテーリングと違い、二時間という制限時間内にできるだけ多くのチェックポイントを通過するというものだ。
またチェックポイントごとに問題が設置されていおり、問題の正解数とチェックポイントの発見数の二つの評価の総合得点を競うのだ。
そして今回は裏ルールとして本部である広場から近ければ近いほど難しい問題、遠ければ遠いほど簡単な問題が設置されている。〕
俺たちの班は御門さんの提案で、まず最初に近くのチェックポイントをいくつか通過し、遠くに移動しながらその問題の答えを考える。そしてぐるっと一周してきた後にまだ時間があれば近くの問題を虱潰しに通過するという作戦にした。
「じゃあ、近くの問題を解いていこうか。」

【チェックポイント1】
もとの数とふるい数から答えを導け
はむよろやてこ
りすとこやとく
にげおたはだら
みたのがしたる

「これさっぱりだわ」
「はいパス」
「あれ、これ・・・」
「え、西原さんわかったの!?」
「あっ、いや!?まだだけど?」


【チェックポイント2】
この学校の校風は?校訓は?学校のモットーは?

「え、校風と校訓の違いってなんだっけ」
「はいパス」


【チェックポイント3】
この中でどれがおかしい?
ア:犬
イ:猫
ウ:猿
エ:キリン

「え、これ簡単じゃない?」
「普通にエだよね」


【チェックポイント4】
ある人は言いました
『8(2×5)(6÷2)(7-4)は6!
果たしてどういう意味?

「この人があほだったとか?」
「いやそれはないから。」

俺たちはあんまり自信が持てないまま、近くの問題を見ていくのだった…