2016年8月2日火曜日

島川恭一の夏。

入道雲が遠くに見え、蝉が五月蠅く鳴いている。
強い陽射しに照らされながら、島川恭一は低い唸り声をあげた。
「あっっっっっつい!!」
隣で色白ツインテールの恭一の彼女、七隈名波は苦笑する。
「夏だねえ...」
「お前余裕だな。日焼けとか嫌じゃないのか?」
「鍔広の帽子だから安心。」
小さくため息をつく。
「それ俺がかぶっても絶対似合わないよなあ。」
つくづく男は不利な生き物だと感じる。いつもそうだ。女は気ままなのに。学校でも端に追いやられ、何かというと、女は弱いんだからもっと守れだの、かと思えば男臭いから寄るな。じゃあどうしろと、と聞くと
「もうほっといて」
と言う癖にいつも構って欲しそうにしている。七隈名波。彼女は、どこかそういう人とは違う一面を持っていたのかもしれない。
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彼女と会ったのは二年前の夏。当時から流行っていたSNSだった。同じ学校の人という認識で相互フォローはしていたものの、全く面識もなければ、SNS内で話をしたことがあるわけでもなかった。
それはタイムラインで起きた出来事だった。彼女は同じクラスのいじめっ子女子、鳳翔院綾子に目をつけられ、彼女が投稿するだけリプライで
『キモい投稿すんな』
『顔も見たくない。学校やめろ。』
『こいつ、本名ななくまななみって言うんだってwwだっせー名前ww』
などの誹謗中傷を。
最初は相手にしていなかったが、だんだん投稿も減ってきて、目に見えて衰弱しているような投稿が増えた。
俺は知り合いでもないし、最初は名波も気にしてなさそうだったから触れていなかったが、だんだん腹が立ってきた。
そしてある日、
『学校やめないんなら殺してあげようか?』
という投稿で堪忍袋の緒が切れた。
『フォロー外からすまん。いつもいつもTL荒らしをしやがるやつがいたから言わせてもらう。一体何なんだ?いじめて楽しいか?見てて腹が立つんだけど。もうこれ以上こういうことやめろ。』
すっきりした。
ここで終わりで、まあ無視されるだろうと思っていたが、意外なことが起きた。
『島川の言う通りやほんとむかつくやめろ』
『お前を殺すぞ』
『みんなでこいつの垢BANしようぜ』
などのリプライが返ってきた。
なんと。みんな思ってたことだったんだ。
それ以降、名波とはよく話すようになったし、そのいじめっ子は姿を出さなくなった。
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そして去年の夏、また事件が起きた。いつもSNSで話しているみんなで夏祭りに行こうという話になった。
そしてその日、少し目を離したすきに彼女がどこかへ消えていた。みんなで探していると、例の鳳翔院(とその彼氏らしき人)に絡まれていた。
「何その浴衣wwだっさww」
ほんとこいつダサいって言葉好きだなと思いながら、声をかける。
「何やってんの七隈さん。」
「おお島川君。こいつが一人でうろうろしてたから保護してあげたのよ。全くダメでしょー彼女を置いていっちゃーwwwいや、こんな人と付き合ってるわけないかwwブスと付き合いたくなるわけないよねーww」
かっちーん。ほんとに頭に来た。こいつ、人をイライラさせる才能があるんじゃねーのか?
「いや、俺は好きだよ。」
「え、」
「俺は七隈さんのこと好きだよ。いつもいつも苦労してるのにそれを全く表に出そうとしないし、一人で傷ついちゃってさ。なんか、すげー守ってあげたくなる。」
「もう!あんたらいちいちうぜー!!なんでもかんでも否定しやがって!!もういいよ!雄介!こんなやつらほっとこ!」
などとかませ犬のような捨て台詞を残して、あいつらは去った。
「...なんかごめんな。俺に好きとかいわれて、いやだっただろ?」
すると、少し先を歩いていた彼女は言った。
「...しかったな。」
「え?」
彼女はこっちを振り返りながら、まぶしい笑顔でいった。
「うれしかったなって!!去年も、今日も。助けてくれた。いつも話を聞いてくれるし。今回の祭りも、ずっと楽しめた。...私は好きだよ。付き合ってください!!」
そして、俺たちは付き合い始めた。
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「そうだな。夏だな。」
「うん。いっぱい楽しもうね。」
「ああ。高校最後の夏だ。これからも...幸せでいような。名波。」
「何急にww」
「何もないよ。ただ、言いたくなっただけ。」
「...うん。ずっと。幸せに。」

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